この記事はAppleの元CEOスティーブ・ジョブズ氏が亡くなる数日前に公開した実話のエピソードです。
2009年 iMac 液晶黄ばみ事件
2009年の出来事だった。
2009年10月にCore i7搭載の27インチ iMac(Late 2009)が発売された。
iMac初のCore i シリーズ搭載ということもあり、僕は購入して半年程度のiMacを手放し、このマシンを手に入れた。
使い心地は最高だった。動作に関しては全く文句なし。しかし、iMacを起動すると、液晶に黄ばんだムラがディスプレイ全体に染み渡っていることに気付いた。
最初はあまり気にしないようにしていたが、iMacを起動する度に、ディスプレイにムラがある部分とそうでない部分の違いがハッキリとわかった。
『自分のiMacだけ黄ばんでいるのだろうか?』
少し不安な気持ちで、同じ現象に見舞われているユーザーがいないかどうか調べてみた。調べてみると、意外に初期ロットのiMac(Late 2009)に同じ現象が多いことがわかった。
行動の早いユーザーは購入直後にアップルジャパンに連絡し、返品手続きを取ったり、ディスプレイの交換手続きを取っていたようだ。
自分は購入から2週間が経過し、返品は不可能だったため、アップルジャパンに事情を説明し、ディスプレイの交換をしてもらうことになった。
最初に対応してくれた社員さんの対応は非常に良心的だった。ディスプレイの質に問題があることを認め、すぐに交換に応じてくれた。
また、交換後に同じ黄ばみがあれば、再度交換に応じてくれると言った。丁寧なお詫びの言葉ももらった。
すぐに修理の手続きを済ませた。これで全てが解決すると思っていた。
交換しても治らない黄ばみ液晶
ヤマト運輸でiMacをアップルジャパンに送った。1週間前後で交換後のiMacが自宅に戻ってきたと記憶している。
交換後のiMacを起動して驚いた。また黄ばんでいたのだ(笑)。ディスプレイを交換したのは確かだった。それは間違いなかった。液晶の黄ばみの模様が明らかに違っていたからだ。
付属していた修理結果の書かれた紙には、「特に問題はないが、お客様の要望で交換した」みたいなことが記載されていた。
アップルジャパンに再度電話で問い合わせた。電話に出た社員は前回の人とは違った。僕は液晶の黄ばみが改善されていないことを伝え、再度交換してもらえないかどうか相談してみた。
相手の社員の対応は酷かった。ディスプレイの質に問題はないと言い切り、液晶の交換に難色を示した。最初に対応してくれた社員さんの話と大きな食い違いがあって、かなり戸惑った。
結局、しぶしぶ交換には応じてくれたが、その社員としてはあまり乗り気ではなかった感じだった。残念な事に、再度交換したiMacも黄ばみだらけだった。
それも今思い返すと仕方なかったのかもしれない。問題になった黄ばみ液晶を、次期ロットで新しい液晶に完全入れ替えて生産し直すには、かなりの期間を必要とするからだ。
「初期ロットは人柱」の意味を、初めて経験することになった。
再々度、アップルジャパンに電話をしてみたが、電話に出た社員は「液晶には問題はない。これ以上の液晶交換も難しい」の一点張りだった。
時間をかけて交渉した結果、その社員から、最後の液晶交換に応じるが、それが結果的に黄ばんでいようがいまいが、「交換はこれで最後」と伝えられた。
僕は「交換後の液晶が黄ばんでいないかどうか、修理工場で確かめてから送ってもらえないか」と、お願いしてみた。
しかし、その社員は「別の部署がやっていることなので、現場に行って確認することは難しい」みたいなことを言われた。要するに結果は「運まかせ」ということになった。
もうそれに応じるしかなかった。これでマトモな液晶がきてくれれば、面倒な修理手続きも終わる。そう願って、最後の望みに託したものの、その願いは叶わなかった。
予想通り、最後の液晶も、黄ばみ液晶だった。
スティーブ・ジョブズ氏にメールしたら奇跡が起こった
もうどうにもすることができなくなったので、液晶が黄ばんだiMacを我慢して使っていた。そのうち使うのが嫌になっていた。
しばらく経った日、Mac系ブログを読んでいて、海外のMacユーザーがスティーブ・ジョブズ氏にメールをしたら、時々返信がかえってくる話題を見かけた。
自分もiMacの液晶のことをスティーブ・ジョブズ氏に相談してみようかなと、軽い気持ちでメールを書いてみることにした。
ジョブズ氏のメルアドはネットで調べたら、すぐに検索できた(ネット上に落ちているアドレスが、本当に本人のアドレスなのかはわからなかった)。
どうせ全く反応はないだろうと、本当に短い英文で、これまでの経緯と、「iMacの液晶を何とかしてもらえないでしょうか?」とメールを書いて送信してみた。
iPhoneに謎の不在着信
次の日、iPhoneに謎の着信が数件あった。登録していない番号だった。
留守電にメッセージが入っていた。メッセージを確認すると、アップルジャパンの人からのものだった。
後で連絡をしてみると、社員さんが電話に出て「ちょっと大変なことになっているが、自分からは詳細は話せない」みたいなことを言っていた。
『やっぱり、俺何か悪いことでもしたのかな?』と本気で怖くなってきた。後で折り返し電話をくれるというので、しばらく待っていたら、iPhoneに電話がかかってきた。
アップルジャパンのお偉いさんが出てきた。内心ビビリながら用件を聞いた。
お偉いさんは、iMacの液晶交換の件で、アップルジャパンの対応を詫び、丁寧な対応で謝罪してくれたのだった。
そして、iMacを新品交換で対応させてほしいとの提案を提示してくれた。
あまりの急な展開に、 自分は状況がよく掴めなった。何故こんなにも急に対応が変わったのか?
お偉いさんと話をするうちに、「アメリカの本社」という言葉が何度か出てきた。 どうやら自分がスティーブ・ジョブズ氏に送ったメールが、Apple本社に届き、本社命令で緊急交換の指示が出たようだった。
お偉いさんの焦りぶりと、Appleの指示の内容を察すると、かなりの厳命だったらしい。とにかく迅速に対応し、この件の報告書を提出しないとヤバイ感じだった。
Apple本社の神レベルの対応が炸裂していた。
その命令を出したのがスティーブ・ジョブズ氏なのか、それともApple本社の中の人なのかはわからない。
それにしても、こんな一人のユーザーのために、Appleが本気モードで対応してくれるとは想像もしていなかったので、『本当にこんなことがあるんだ』と鳥肌が立っていた。
その後の展開は、早かった。
iMac 27inch Core i7 はBTO製品のため、海外からの発送となった。黄ばみ液晶のiMacを返却し、1週間前後で新しいiMacが届いた。
iMacの液晶は全く問題のないレベルだった。黄ばみが全くと言っていいほど見られない。
届いてからのお偉いさんのフォローも良かった。数回のやりとりを得て、このiMacを使っていくことで、この問題は解決となった。
スティーブ・ジョブズ氏に送った1通のメールで全てが変わった。
送ったメールに対する返信はなかったが、スティーブ・ジョブズ氏およびApple社の神レベルの心遣いに、「やっぱりAppleすげー」と感動しまくりだった。
この問題が解決してから、スティーブ・ジョブズ氏に御礼のメールを送信した。勿論、返信は来ない。
しかし、テキトーにスルーしてもいいはずの問題を、スルーせずに救ってくれたスティーブ・ジョブズ氏とApple社の厚意を、僕はずっと忘れないだろう。
そして、ずっとこれからもApple製品を使い続けていくだろう。